サードパーティークッキー廃止方針撤回とその未来

ユーザーとの信頼関係を最優先に
松浦シゲキ 2024.08.13
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コミュニケーションプランナーの松浦シゲキです。

Googleが7月22日、ウェブサイトをまたいで消費者の閲覧履歴を共有する「サードパーティークッキー」の仕組みについて、廃止するとしていた方針を撤回すると表明しました。

「サードパーティークッキーの廃止方針撤回?そんな技術的な話題が、なぜ『メディア・コミュニケーション・インサイト』なの?」

こんな疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この決定は単なる技術的な方針転換ではありません。デジタル広告の世界、そして私たちのコミュニケーションの在り方に大きな影響を与える出来事なのです。

サードパーティークッキー廃止方針から撤回の経緯

そもそもまずはクッキー(Cookie)とは何かを簡単に説明しましょう。インターネットのクッキーは、単純に言えばあなたのウェブサイト訪問の記録を残す仕組みです。

クッキーには大きく分けて2種類あります:

  • ファーストパーティークッキー:あなたが訪れたウェブサイトが直接置いていく「お土産」のようなもの

  • サードパーティークッキー:そのウェブサイトの「お客さん」(多くの場合は広告会社)が置いていく「お土産」

ファーストパーティークッキーは、たとえばオンラインショップであなたのショッピングカートの中身を覚えておいてくれたり、ログイン情報を記憶してくれたりする便利なものです。

一方、サードパーティークッキーは、あなたがどんなウェブサイトを訪れたか、何に興味があるかを追跡し、それに基づいて広告を表示するのに使われてきました。簡単に言えば、「あなたの興味関心を推測して、それに合った広告を出す」ための仕組みです。

「ちょっと興味があるな」と思っていたモノやコトが、誰にも伝えていないのに、突然ウェブ広告に現れるようになって、自分の脳内を覗かれているような気分になった経験はありませんか? それはこのサードパーティークッキーを用いた広告の最適化技術が関係しています。

しかし、ここ数年、このサードパーティークッキーが問題視されるようになりました。なぜでしょうか?

それは、プライバシーへの意識が高まってきたからです。「知らないうちに自分の行動を追跡されている」という不安や不快感を感じる人が増えてきたのです。

2018年、EUが「GDPR(一般データ保護規則)」という法律を施行しました。この法律は、企業がユーザーの個人情報を扱う際のルールを厳しくしたのです。アメリカのカリフォルニア州でも似たような法律(州法)ができました。

これを受けて、大手テクノロジー企業も動き出しました。Appleのブラウザ「Safari」は2020年にサードパーティークッキーをブロックし始めました。

そして2020年1月、Googleが衝撃的な発表をします。「2年以内にChromeブラウザでサードパーティークッキーを廃止する」と。ChromeはシェアNo.1のブラウザですから、この発表は広告業界に大きな衝撃を与えました。

しかし、この計画は簡単には進みませんでした。広告業界からの反発や、代替技術の開発に時間がかかることなどから、Googleは何度も廃止の時期を延期しています。この度重なる延期は、サードパーティークッキーに依存してきた広告業界の現状と、プライバシー保護の要請との間で、Googleが苦心してきた表れとも言えるでしょう。

そして、2024年7月23日、Googleはサードパーティクッキー廃止方針を撤回しました。

「サードパーティCookie」は、複数のサイトを横断してブラウザの閲覧を追跡できるため、効率的な広告表示などに用いられている。しかし、オンラインでの行動の追跡によるプライバシーへの懸念の高まりなどから、これまでGoogleは段階的に廃止する方針を示していた。当初は、2022年までの終了を予定していたが、その後2023年後半、2024年後半、2025年早期と廃止を延期。今回、サードパーティCookieの完全廃止ではなく、新たなプライバシー制御機能をChromeに追加すると表明した。

サードパーティークッキー廃止がもたらす予定だった影響とは

そもそも、サードパーティークッキーの廃止は、どのような影響をもたらすと考えられていたのでしょうか。「廃止撤回」について考える前に、おさらいしておきます。

広告業界への影響

廃止により、広告業界は大きな変革を迫られると考えられていました。

リターゲティング広告の困難

あなたがオンラインショップでスニーカーを見た後、別のニュースサイトでそのスニーカーの広告が表示されるような「リターゲティング広告」が難しくなると予想されていました。これは、多くの企業のデジタルマーケティング戦略に大きな影響を与えるものでした。

広告効果測定の変化

ユーザーがFacebookで広告を見て、その後Googleで検索して購入するといった、複数のプラットフォームをまたいだ行動の追跡が困難になると考えられていました。これは広告効果の測定方法の大幅な見直しを必要とするものでした。

現在の撤回により、これらの課題は一時的に回避されましたが、プライバシーへの配慮と効果的な広告のバランスを取る必要性は依然として存在はします。

ユーザーへの影響

ユーザーの視点から見れば、サードパーティークッキーの廃止は、プライバシー保護や情報収集パターンの変化に大きく寄与すると考えられていました。

追跡の減少

ウェブ閲覧履歴が広告会社によって追跡されにくくなり、「見知らぬ誰かに見られている」という不安感が減ることが期待されていました。

フィルターバブルの緩和

また、「フィルターバブル」と呼ばれる現象(過去の行動履歴に基づいて、似たような情報ばかりが表示される状況)も緩和される可能性があると考えられていました。

廃止方針の撤回により、これらの変化は直接的には実現しませんが、プライバシーへの意識の高まりは継続しています。近年IT各社が取り組んでいる新たなプライバシー制御機能の追加は、この流れを反映したものと言えます。

企業のコミュニケーション戦略への影響

サードパーティークッキーの廃止は、企業とユーザーとのコミュニケーションの在り方にも大きな変化をもたらすと予想されていました。

「追跡して広告を出す」というアプローチから、「ユーザーとの直接的な関係構築」へと重点が移ると考えられていました。例えば、企業は自社のウェブサイトやアプリでユーザーから直接データを取得し、それを基にコミュニケーションを図る「ファーストパーティーデータ」の活用が注目されていました。

また、ユーザーの行動履歴に頼らず、魅力的なコンテンツで自然にユーザーを引き付ける「コンテンツマーケティング」の重要性が増すと予想されていました。

廃止方針の撤回により、これらの変化を実行する緊急性は低下しましたが、プライバシーを重視する時代の流れの中で、これらのアプローチの重要性は依然として高いですし、今後ますます高まっていくはずです。

変化の必要性は継続している

ここまで見てきたように、サードパーティークッキーの廃止方針は撤回されましたが、そこで議論された多くの課題や新しいアプローチの必要性は依然として存在します。プライバシーへの配慮、ユーザーとの直接的な関係構築、質の高いコンテンツの提供など、これらの要素は今後のデジタルマーケティングとコミュニケーション戦略において重要な役割を果たすでしょう。

廃止が予定されていた際に検討された新しいアプローチや技術は、今後も発展し、デジタル広告の世界に変革をもたらす可能性があります。そのため、メディアや広告主は、サードパーティークッキーに過度に依存することなく、多様なアプローチを柔軟に取り入れる準備をしておく必要があると思います。

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続きは、4829文字あります。
  • 代替技術と対応策:新たな文脈での再評価
  • 廃止方針撤回によるメディアビジネスへの影響
  • テクノロジーは手段であって目的ではない
  • まとめ:変化を恐れず、より良いコミュニケーションを目指して

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