自分自身をメディア化する - コミュニケーションプランナーが考えるキャリア構築法

成長とは「持ち札」を増やすこと
松浦シゲキ 2024.09.02
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コミュニケーションプランナーの松浦シゲキです。

企業も個人も、メディアもサービスも、それぞれの課題を解決するためのコミュニケーションの考え方(方法論・戦略論)をお伝えできればと思い、毎週1本、約3ヶ月、編集者の力を借りて濃いテキストをお送りしてきました。基本となるフレームワークに大体触れたので、ここで一段落を付けようと思います。

最後にお送りするのはキャリア論です。20年以上にわたるキャリアの中で、私は様々な職場や役割を経験してきました。そして気づいたのは、個人のキャリア構築とメディアコミュニケーションには驚くほど多くの共通点があるということです。

私は日々、自分自身を「ブランド」として発信し、周囲とコミュニケーションを取っています。就職活動や転職、日々の業務でのプレゼンテーション、さらにはSNSでの自己表現まで、すべてが自分という「メディア」を通じたコミュニケーション活動と言えるでしょう。

これまでのニュースレターで、私はメディアコミュニケーションの本質について、以下の3つの軸から説明してきました:

  • ブランドコミュニケーション:受け手の課題解決における純粋想起相手となること

  • サーチコミュニケーション:受け手が能動的に情報を取得すること

  • ソーシャルコミュニケーション:受け手が受動的に情報を取得すること

実は、これらの概念は個人のキャリア戦略にも当てはまります。

例えば、ブランドコミュニケーションは、あなたが業界内でどのように認知されているか、どんな価値を提供できるかを示します。サーチコミュニケーションは、あなたのスキルや経験が求人検索やLinkedInなどで適切に見つけられるかどうかに関わります。そして、ソーシャルコミュニケーションは、口コミやネットワーキングを通じてあなたの評判がどのように広がるかを意味します。

これらの類似性から、効果的なキャリア戦略の立て方について私なりの考えをお伝えできればと思います。メディアコミュニケーションの手法をキャリアに応用することで、より戦略的かつ効果的に自己ブランディングを行い、キャリアを構築していく考えのひとつになれば幸いです。

一人一人が最小単位のメディアとなっている今こそ、キャリア構築はまさにパーソナル・メディアのグロース戦略になります。

自分自身のブランドコミュニケーションとは

メディアコミュニケーションの世界では、ブランドコミュニケーションの構築が成功の鍵を握ります。同様に、キャリア形成においても、自分自身のブランドコミュニケーションを考えることが重要です。従来の自己PR方法とは異なり、デジタル時代のブランドコミュニケーションでは、一貫性のある個人ブランドをオンライン上で構築し、維持することが重要です。

ビジョンの重要性と設定方法

ブランドの核となるのは、その存在意義や価値観を表すビジョンです。私自身は、Vol.3でも解説したように「みんなで幸せになろうよ」というビジョンを長年掲げてきました。

このビジョンを設定する際のポイントとしては「何のために働くのか」「どんな社会に貢献したいのか」といった根本的な問いに向き合うことが大事です。改めて、私のビジョンを例に分解してみます。

  • 包括性:「みんな」という言葉が示す広い視野

  • 共創性:「で」が表す協力の精神

  • 前向きさ:「幸せ」という肯定的な目標

  • アクション指向:「なろう」という能動的な姿勢

これらの要素により、結果的に多くの人々の共感を得やすい価値観となっています。自らのビジョンを考える際も、このように広く共感を得られる要素を盛り込むことで、より強力な自己ブランドを構築できるのではないでしょうか。

ブランドコミュニケーションの3要素を自己に適用する

メディアブランドの構築で重要な「識別」「価値」「品質」という3つの要素は、自己ブランディングにも適用できます。

Vol.3でも書いたのですが、自己ブランディングを念頭に、今一度簡易に表すとすると、以下のようになります。

識別

  • 自身の独特な経験や視点を強調し、記憶に残る個人ブランドを構築する

  • vol.2でも触れた「第一印象力」にも関わります。赤メガネは私の大事な識別です。

価値

  • 自身のスキルや知識が、どのように他者や組織の課題解決に貢献できるかを明確に示す。

  • 改めて私の価値を並べると、以下になります。

✔︎事件事故が起きないように、予防についてのアドバイスを提供する。
✔︎例えば蒸気から電気への変化について理解してもらえるように、変化に関する視点を提供する。
✔︎まずは相手の気持ちを害さないよう、安心に関する視点を提供する。

品質

  • 継続的な自己研鑽と安定したパフォーマンスを通じて、信頼できるプロフェッショナルとしての評判を築く。

  • 私自身の品質としては、「情報の正確性」「専門性の担保」「一貫性の維持」「誠実さの表現」が挙げられます。

これらの要素を意識的に磨き上げることで、魅力的なブランドとして確立することができます。

自分自身をブランド化する過程は、自己理解を深め、キャリアの方向性を明確にする貴重な機会となります。

キャリアにおけるサーチコミュニケーション

サーチコミュニケーションは「受け手が能動的に情報を取得する」プロセスを指します。キャリアの文脈では、求人企業や潜在的なクライアントが、あなたのスキルや経験を積極的に探し出す過程に相当します。つまり、キャリアにおけるサーチコミュニケーションとは、あなた自身をオンライン上で「検索可能」にし、市場のニーズに合わせて自己をアピールする戦略なのです。従来の求職活動と異なり、単にオンライン上でプロフィールを公開するだけでなく、AIアルゴリズムを理解し活用することが必要となります。

自己の強みと市場ニーズのマッチング

効果的なサーチコミュニケーションの第一歩は、自己の強みを正確に把握し、市場のニーズとマッチングさせることです。私がvol.2で触れた「診断力」の概念を自己に適用すると、こうなります。

  • 自己分析:自分の技能、経験、独自の強みを客観的に評価する。

  • 市場分析:現在の業界トレンド、求められるスキルセットを研究する。

  • ギャップの特定:自己分析と市場分析のそれぞれの結果におけるギャップを見つけ、必要に応じてスキルアップを図る。

例えば、私自身の経験では、20代のエンジニア人生におけるプログラミングの基礎知識と、30代入ってすぐに結果として素人同然ながら鉄火場のメディア運営をする経験を得たことを組み合わせることで、テクノロジーとコンテンツの両方を理解できる稀少な人材として、自己をポジショニングすることができたのはとても強みとなりました。

スキルセットの可視化と発信

自己の強みを把握したら、次はそれを効果的に可視化し、発信することが重要。あなたがサーチコミュニケーションの対象になるためのサーチキーワードはなんでしょうか? そしてそのキーワードに応じて、プロフィールの最適化をしていますか? かつ、そのコンテキストの発信がされてるでしょうか?

私の場合、雑に「デジタルメディア」「ウェブメディア」「プロデューサー」「ディレクター」「メディアビジネス」とか、その時の状況に合わせていくつかの切り口たるキーワードを持ってきました。そのキーワードの組み合わせによって、プロフィールをこれまたその時の状況で細かく変え、かつ、これまでXでスナックコンテンツだけを発信してきたのに加え、このニュースレターでコンテキストの発信も実施しています。

「診断力」を活かし自己分析と市場分析

さて、「診断力」は、単に自己を分析するだけでなく、自分が関わる業界におけるニーズを正確に読み取る能力も指します。

  • トレンドの把握:業界のトレンドや新しい技術の台頭を常に追います。

  • ニーズの予測:将来的に求められるスキルを予測します。

  • 柔軟な適応:市場の変化に応じて、自己のスキルセットや経験を再解釈し、新たな文脈で提示する準備をします。

トレンドの把握は、たとえば私なら、上記にあるようなスキルセット・コンテキストを持っていて「生成AIに触れていない」などありえません。また、ニーズの予測としては、私は「コミュニティ形成の重要さ」を今の自分の課題と捉えて、さまざまなコミュニティに入り直しています。そして柔軟な適応。「老害」は誰にでも発生する、経験が生み出すガンだと思います。この老害という病を自分に発生させないためにも、常に変化を追い求める柔軟な適応が大事だと思います。ちょっとした自分の縛りですが、年齢を明かさないというのはその一環だったりします。

ソーシャルコミュニケーションとしてのキャリア形成

ソーシャルコミュニケーションは、「受け手が受動的に情報を取得する」プロセスを指します。キャリアの文脈では、これは人々があなたについて他者から聞いたり、あなたの評判や実績が自然に広まっていく過程に相当します。つまり、キャリアにおけるソーシャルコミュニケーションとは、人的ネットワークを通じて自己ブランドを拡散し、機会を創出する戦略なのです。デジタル時代のソーシャルコミュニケーションは、物理的な人脈形成を超えて、オンラインとオフラインを融合させたハイブリッドなネットワーキングが必要になります。

「3つの縁(血縁、地縁、知縁)」を活用したネットワーク構築

効果的なソーシャルコミュニケーションのためには、多様なネットワークを構築することが重要です。ここで、私がVol.5で紹介した「3つの縁」の概念を応用してみましょう。

血縁:家族や親族のネットワーク

  • 直接的なキャリア機会は少ないかもしれませんが、長期的な支援や異なる視点を得る上で重要ですし、家族経営の事業がある場合、そこでの経験や人脈が将来的に役立つことがあります。

地縁:地域や所属組織のネットワーク

  • 同じ環境を共有する人々とのつながりは、共通の文脈を持つ強力なネットワークとなりますし、大学の同窓会や前職の同僚とのつながりを維持することで、業界内の情報や機会を得やすくなりますし、なによりもこの地縁における紹介はキャリアにおける強烈なあと押しになります。

知縁:共通の興味や専門性を持つ人々とのネットワーク

  • 特に現代のキャリア形成において重要性が増しています。別に同じ所属組織に所属してなくてもいいのです。ある意味、業界におけるこのような知縁の繋がりでキャリアアップさせていくことが今や重要です。

私自身、血縁によるネットワーク構築を行ったことはありませんが、とはいえ、従兄弟に地方紙勤務がいたりして情報交換程度を行うことはあります。また、地域としての地縁はこれまた言うほど強くは作用してませんが、やはり同僚の繋がりによって、少なくとも数回の転職時のキャリアアップを果たしましたし、私自身も同僚の転職やスキルアップについては惜しみなく協力してきました。ハフポスト日本版編集長になったのは知縁の極みともいえます。

デジタル時代の人脈形成と情報発信

興味・関心の輪に入るソーシャルコミュニケーションにおいて、やるべき能動的なアクションもいくつかあると思います。

オンライン・プレゼンスの確立

  • サーチコミュニケーションで構築したプロフィールを基盤としつつ、ソーシャルメディアでの存在感を高めることが重要です。具体的には、業界のトレンドに関する洞察や、自身の経験から得た教訓を共有するなど、一貫性のある情報発信をすることが大事です。また、他者の投稿へのコメントや議論への参加を通じて、XやFacebook、YouTubeなど自己が強く機能するソーシャルメディアでの存在感を示し、「弱い縁」を積極的に構築・維持します。これにより、潜在的な機会との接点を増やし、キャリアの可能性を広げることができます。

オフラインネットワーキング

  • オフラインでの勉強会や業界イベントに積極的に参加することはやはり大事です。一度でも話したことがあるだけの繋がりでも次の仕事に繋がることはあります。

コンテンツ作成とシェア

  • オンライン・プレゼンスを確立したソーシャルメディア上では、テキストでも動画でも音声でも自身の知見を共有し続ける。継続は力なりではないですが、続けることが大事になります。

私自身、このニュースレターの執筆は、サーチコミュニケーションでもあり、ソーシャルコミュニケーションの一環でもあります。また、5年続けているポッドキャスト「それでもメディアは面白い」は深いエンゲージをもったユーザが多く、聞かれている数はそこまででもなくても、仕事に繋がることはあります。

「なめらかに弱く繋がる世界」での立ち位置の確立

現代のデジタル環境では、vol.5で触れた「弱い縁」が重要性を増しています。「なめらかに弱く繋がる世界」では、直接的な強いつながりだけでなく、SNSやオンラインコミュニティを通じた緩やかな関係性が、キャリアの機会を大きく左右します。例えば、LinkedInでの弱いつながりが、思わぬ転職や協業の機会をもたらすことがあります。この環境下でのキャリア形成には、以下のような戦略が必要だと私は思ってます。

多様性の受容

  • 異なる背景や専門性を持つ人々とのつながりを積極的に構築するのが大事で、多様な視点を取り入れることで、自身のキャリアの可能性を広げる。

柔軟な自己表現

  • 状況や相手に応じて、自身の専門性や経験を柔軟に表現し、固定的な肩書きにとらわれず、多面的な自己を示す。

継続的な価値提供

  • 一方的な自己宣伝ではなく、常にネットワークに価値を提供する姿勢を持ち、情報共有、紹介、アドバイスなど、様々な形で貢献する。

私の例で言えば、メディアビジネスの業界外との繋がりを積極的に求めるようにしています。例えば、習い事を必ずするようにしているのですが、そこで出会った人々は「メディアビジネスとはなんぞや」というとても客観的な視点を提供してくれます。また、誰とでも弱く繫がれるようになったからこそ、切れやすいその縁をつなぎ止めるためにも、発信自体も緩くあるべきだという考えがあります。TPOはありつつ、私は年齢を感じさせない発信やその言葉遣いが大事だと考えてます。そして最後に自己宣伝ではなく情報発信をすること。情報受信者にならないこと。まずはギバーでいいと思うのです。これは自分に課した一つのルールなのですが、大学生からの相談はどんな悩みでも気軽に無償で乗るようにしています。

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続きは、1999文字あります。
  • 成長とは「持ち札」を増やすこと
  • 一人ひとりをメディアとして捉える

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